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大阪地方裁判所 昭和31年(ワ)4703号 判決

原告 株式会社 大久遠商会

被告 株式会社 近畿相互銀行

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

別紙目録記載の物件について、さきに当裁判所の為した強制執行停止決定は、これを取消す。

前項に限り阪りにこれを執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告が、昭和三一年六月二九日神戸地方法務局所属公証人浅辺{雨鶴}衛作成の第六一、一六三号公正証書の執行力ある正本に基いて、昭和三一年八月二四日訴外上野鹿造に対して別紙目録記載の物件に付いて為した強制執行は、これを許さない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決、及びさきに為した強制執行停止決定の認可、並びにその仮執行の宣言を求め、

その請求の原因として、

被告は請求の趣旨第一項記載の債務名義に基いて、昭和三一年八月二四日、訴外上野鹿造に対する強制執行として、別紙目録記載の物件に付いて差押をした。しかしながら、右物件は昭和三一年一〇月二六日、訴外上野鹿造に対する強制執行によりて競売せられ、原告においてその競落をしてこれが所有権を取得した上、右訴外人をしてこれを保管せしめている物件であつて、現在原告の所有に属し、訴外上野の所有に属しない。従つて右訴外人に対する強制執行として、原告の所有に属する右物件について、強制執行をするのは違法であつて、これを許すべきでない。よつて原告は被告に対して右被告の強制執行の排除を求めるため、本訴に及んだと述べ

立証として甲第一号証及び同第二号証の一、二を提出し、乙号各証の成立を認めた。

被告は主文第一、二項同旨の判決を求め、

答弁として

被告が訴外上野鹿造に対して、原告主張の債務名義に基いて原告主張の強制執行をしたことは認めるが、その執行の目的物である別紙目録記載の各物件が、原告の所有に属し、右訴外人の所有に属しないことは否認する。被告は、執行吏に委任して、原告主張の債務名義に基いて、昭和三一年八月二四日訴外上野鹿造に対する強制執行手続として前記各物件を差押えたところ、その後において、原告は執行吏に委任して、同年一〇月一八日同訴外人に対する強制執行として、さきの被告の差押えたと同一の物件を二重に差押え、続いて同月二四日、右差押物件を競売に附し、原告自らこれを競落したのである。右の場合、原告の右差押及び競売は、既に被告の差押えている物件に対する二重の強制執行であつたから、民事訴訟法第五八六条に違反し、無効の強制執行である。従つて、右無効の強売手続において、本件各物件を競落した原告は、競落物件の所有権を取得できない。本件の各物件は、現在においても依然として訴外上野鹿造の所有に属しているので、被告が同訴外人に対する強制執行として右各物件について強制執行手続を進めることは適法である。その違法であることを前提とする原告の本訴請求はその理由がない。

仮りに然らずとするも、強制執行に対する第三者の異議は、当該強制執行手続の差押以前から執行目的物である物件について、所有権その他その引渡を妨げる権利を有する第三者に限り、正当にこれを為し得るのであつて、既に差押のあつた後に差押物件について所有権等の権利を取得しても、右強制執行の排除を求める資格を取得できない。原告が本件の各物件についての所有権を取得したと主張する時は、本件強制執行の差押のあつた以後であること原告の主張自体で明らかであるから、原告の所有権取得の真否を確かめるまでもなく、原告は本件強制執行に対して第三者としての異議を述べる正当な資格がないと述べ

立証として乙第一、二号証を提出し、証人中西由太郎、同梅田三郎及び同上野清子の訊問を求め、甲号各証の成立を認めた。

理由

当事者間に争のない事実と、成立に争のない甲第一、第二、第三号証及び乙第一、第二号証と、証人中西由太郎及び同梅田三郎の各証言を綜合すれば、訴外上野鹿造に対する本件の債務名義に基く被告の強制執行(以下本件執行と略称する)について被告の委任を受けた執行吏の代理は、昭和三一年八月二四日、右訴外人方に臨み、同所において同訴外人所有の本件各物件(九品目一四点)その他(三品目三点)を差押え、自らの占有に移し、差押の標示を押入のふすまの裏に貼付けた上、債務者である前記訴外人に保管を命じて右差押物件をその場に留め置いたところ、その後、右訴外人に対する原告の強制執行(以下第二の強制執行と略称する)について原告の委任を受けた執行吏の代理は、同年一〇月一八日、差押を為すために右訴外人方に臨んだが、先の本件強制執行の差押の標示の貼付場所が適当でなかつたのと、第二の差押に立会つた右訴外人の妻が既に先の差押のされていることを明確に告知しなかつた為めに、本件各物件について既に本件強制執行のあることに気付かないで、同所において、右訴外人所有の本件の各物件を含む動産一七品目二四点を差押え、これを自らの占有に移し、差押の標示を施した上、債務者である前記訴外人に保管を命じ、差押物件をその場に留め置いたこと、その後同月二四日、第二の強制執行が本件強制執行より先に競売実施の運びに至つて、その競売において債権者である原告が自ら競売物件全部を競落したが、債務者の頼みに応じて右競落物件を債務者のもとから引揚げて持ち帰ることをしないで、そのまゝ債務者に寄託してその保管をさせ、債務者の手許に留め置いたこと、及びその後、被告が先に差押をした本件強制執行を進行させ、本件各物件を含む差押物件について競売を実施する気配が見えたので、原告は右競落により本件各物件の所有権を取得していると称して、本件強制執行に対して本件の第三者の異議の訴を提起したものであることを認めることができる。

強制執行に対する第三者の異議にあつては、その第三者が強制執行の目的物について所有権その他目的物の引渡を妨げる権利を持つているときは、右権利をもつて強制執行をした債権者に対抗することができる限り、右権利を取得した時が右強制執行の差押の時より先であると後であるとに係わりなく、異議の理由があるので、原告が本件各物件について持つていると主張している所有権の取得の時は明らかに本件強制執行の差押の時以後であるけれども、それだけでは被告の主張するように原告の本訴異議が理由がないと断定するわけにはゆかない。原告が前記のような所有権等を有しているかどうか、これをもつて被告に対抗することができるかどうかを調査して始めて右争点を判定できるわけである。

よつて原告が本件各物件の所有権を持つているかどうかについて判断する。民事訴訟法第五八六条第一項の二重差押禁止の規定は執行吏に対する訓示的規定に止るものと解すべきではなく強制執行手続に混乱の生ずるのを防止し、併せて先に差押をした債権者の権利を保護する目的のために設けられた強行規定であると解せられるので、右規定に違反して二重差押をしたときは、後の差押及びこれに続く強制執行手続は無効であると解すべきところ、前記の認定事実によれば、第二の強制執行にあつては、原告の委任した執行吏は、本件強制執行において既に差押えられている本件各物件について照査手続をすることなく、法の禁止する二重差押をしたのであるから、右第二の強制執行の差押及び競売のうち本件各物件に関する部分は無効である。従つて右競売において競売物件の競落人となつた原告は、本件各物件に関する限り、右競落を原因として右各物件の所有権を取得することができない。

また前記認定によれば本件各物件は前記競売あるまで債務者である訴外上野鹿造において占有していたところ原告は本件各物件を競落した後、これをその従来の所在場所から移動させることなく、そのまゝ従来の占有者であつた右訴外人に寄託し、原告のために保管せしめたのであるから、このような占有改定だけでは民法第一九二条の即時取得の要件としてのいわゆる占有の開始に該当しないので原告は本件各物件の即時取得もしていない。

以上のように、原告は本件各物件について所有権を取得していないので、右物件に関する限り更めて民事訴訟法第五八六条第二項所定の手続を為すべきであつて、原告に右所有権あることを前提とする原告の本件異議の訴は失当である。

よつて原告の本訴請求を棄却し、民事訴訟法第八九条第五六〇条第五四八条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 長瀬清澄)

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